交通死亡事故、遺族と加害者の取材記事として毎日新聞社に掲載されました

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「交通死遺族、消えぬ苦しみ」というテーマで取材を受け記事にしていただけました

2017年10月横浜市首都高湾岸線、株式会社新木商事トラックドライバーの居眠り運転が原因で起きた追突事故。
私たち遺族と、居眠り運転(原因は劣悪な労働環境による過労運転)をしていた加害者のその後について毎日新聞社が取材をし、記事にしていただけました。

毎日新聞 交通死遺族、消えぬ苦しみ(その1)

以下は2020年2月10日(月曜)の夕刊記事に掲載された記事の抜粋です。

交通死遺族、消えぬ苦しみ

交通死遺族、消えぬ苦しみ(その1)

優しかった息子、突然いなくなった
「毎日、息子の写真を見て思うんです。何で、何でって……」。横浜市内の高速道路で約2年前に起きた追突事故で長男(当時21歳)を亡くした母親は、今もやるせない思いを募らせている。加害者となったトラック運転手の男性(32)は交通刑務所に入り、一瞬の気の緩みを悔やみ続ける。2019年も3000人以上が犠牲になっている交通事故。遺族と加害者側の苦悩を取材した。【岩崎邦宏】

青空が広がる日曜日の朝だった。17年10月1日午前6時半ごろ、横浜市磯子区の会社員、臼井翔さんは、ローンを組んで買ったばかりの中古の「クラウン」を駆って、友人と一緒に千葉県で開かれる車の展示イベントに向かっていた。

同市鶴見区の首都高速湾岸線で、友人の車から異音がしたため、臼井さんは自分の車も路肩に止め、原因を調べようと車外に出た。この時、停車していた2台の車に中型トラックが追突した。臼井さんは車の間に挟まれ、搬送されたが死亡した。友人ら4人も首の骨を折るなどの重軽傷を負った。あっという間の出来事だった。

父の上野俊人さん(53)が自宅から病院に駆けつけた時、臼井さんは亡くなっていた。事故はテレビや新聞のニュースで取り上げられ、母の臼井利恵さん(51)は「息子の名前とめちゃくちゃに壊れた車が報道され、信じられなかった」と振り返る。

臼井さんは幼い頃から友人や後輩の面倒見がよいことで知られていた。通夜には勤務先の引っ越し業者関係者や友人ら約350人が詰めかけた。事故から2年後の19年10月には、小中学生の頃に頻繁に遊んでいたという近所の自閉症の男性が、母親と共に仏壇に手を合わせに来てくれた。

「皆にかわいがってもらっていた。ヤンチャなところもあったけど優しい子。事故も優しさがあだになったんだと思う」。利恵さんは声を落とす。

夫婦は、臼井さんが小学校高学年の時に離婚した。臼井さんは、両親を気遣い、姉も交えて週末に4人で食事をしていた。事故の1週間前にも、車に両親を乗せて横浜市内の飲食店へ行った。「仕事を頑張ってローンを返す」「お袋の面倒は俺が見るから」――。臼井さんはそう話し、俊人さんが営む飲食店で一緒に働く夢も語っていたという。

トラックを運転していた運送会社の男性は、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の罪で在宅起訴された。両親は被害者参加制度を使って公判に出席することにした。男性からはダイレクトメールのような営業用の封筒に入った謝罪文が届いたが、誠意は感じられなかった。類似した事件の判例を調べたところ、「執行猶予が付くのではないかという不安があった」(俊人さん)という。意見陳述で「おろかな行動で人の家族を不幸にしただけでなく、自分の家族も不幸にしたことを刑務所に入って思い知るべきだ」と述べた。

事故はなぜ起きたのか。裁判資料によると、トラックを運転していた男性は事故当日、午前2時半ごろに仕事を始めた。複数のスーパーに食品を運び、物流センターに戻る途中、時速約70キロで臼井さんらの車に突っ込んでいた。

トラック運転手になって約6年。初めての事故だった。普段の1日の勤務時間は主に午前3時~午後5時ごろで、単純計算で14時間に及んでいた。睡眠時間は午後10時から翌午前1時半までと、わずか3時間半だったという。1週間のうち休日は1日程度だった。

厚生労働省は休憩時間を含めたトラック運転手の拘束時間の上限を月293時間(労使協定を結べば320時間まで延長可能)と告示する。だが、男性が事故を起こした前月の17年9月の拘束時間は339時間45分に上っていたことが裁判で明らかになった。

男性は公判で、「できる限り睡眠時間を確保するよう気を付けていた」と主張したが、「事故前後の記憶がはっきりと残っていないが、前方不注意で漫然と運転していた」とも述べ、居眠り運転だったことを認めた。

男性は19年3月、禁錮2年の実刑判決が確定した。裁判官は量刑理由で「居眠り運転をする可能性は十分予測できたはずだった。仮眠を取るなどすべきだったのに無理な運転を続けて事故を招いた」と指摘した。男性は6月、交通刑務所に収監された。

<10面に続く>

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